Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/12/22


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.257

文京シビックホール●反響板版

 多目的ホールの特徴ある内観が、どうやらその館の持つ反響板のデザインと一体化した、視覚的な
仕掛けをもくろんでのものらしい、ということにやっと気がつきました。大よそは遠近法を利用した
スペース・サイズの操作、特に奥行き方向。

 空間容積の大小は残響時間の長短に密接ですし、演奏家と聴観衆間の直線距離の多寡が音像や音質
の明瞭化を左右するので、どうしても舞台の奥行きが浅くそして天井が高くなります。また多目的ホ
ールの場合、舞台を囲む客席を放射状に広げたレイアウトが選ばれることも少なくなく、その結果、
反響板の内側は奥に向かって狭くなります。天井は奥に向かって大きく下がり、両側の壁は奥へ閉じ
ていく形です。

 全体の視線が正面の壁に収斂してしまうわけで、無造作な白い壁面ではおよそ人が小さく見えてし
まい、何かの工夫をして、より魅力的に演奏家が引き立つように、合理的な装飾を考えることになる
のでしょう。いわゆる、目の引っ掛かりを造る、という作業です。それには客観的合理性より設計側
の主観的価値基準がモノを言います。

 この文京シビックの客席壁面にはノコギリ歯型をした飾りがあるのですが、折れ上がった柱が客席
天井を支え、その天井=天空の雲間から幾筋もの光が壁や客席に降り注ぐように照明器具が設置され
ています。光の降り注ぐ先は装飾木パネルで、そのパネルは2階席の最も奥から段々に舞台正面まで
続いています。この木パネルのデザインはアールデコ調で、舞台奥から客席に向かって光が広がるよ
うな感じ。

 両方の工夫で、のし掛かる真っ白な天井の大きな重い物量感が軽減され、比較的心穏やかに、場内
に座り続けることが出来ます。三角形をしたくぼみが幾列も並んで場内を照らす機材がレイアウトさ
れている様子はトトロの腕立て伏せ、とのことですが、実際にその巨体が頭上に重味なく存在する不
気味さは、なかなかのもの。

 それはさておき、鼓童12月公演2008、千秋楽です。休日のマチネ公演は不景気な世相ではあ
りながらまだしも明るく、子供連れやグループでの賑やかな観覧が多いですね。エンターティメント
的にどんな人でもが楽しめる上演では必ずしもないので、毎年の12月公演を心待ちにしてくださっ
ているお客様で場内が埋まると、多少の冒険も安心して展開できるようで、不思議な共犯関係が成立
します。

 太鼓の音、打撃音と胴の響き、唄や琴・胡弓などの楽器、笛、それぞれのキャラクターを味わうに
は今回のようなコンサートホール様式が良いのだと思います。視覚的な情報が少ないので、心置きな
く目をつぶって音色やアンサンブルを楽しむことが出来ますし、必要以上に場内が暗くなることも無
いので、場内の他のお客様との一体感も得ることが出来、本当に良い演奏の時には、もう曲の最中か
ら客席がニコニコしてくるのが分かります。プロセニアムの多目的ホール環境とは何かが決定的に違
う。

 たぶん反響板と場内装の効果だと思うのです。舞台と客席に、運命共同体的な連携が、自然と発生
しているように感じました。お客様が始めから音楽に全身をさらすことになるから、演奏家もそのつ
もりで雰囲気を創ることになるから。

(2008/12/22)


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