Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/12/15


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.253

NHK大阪ホール●放送会館3階

 さて場内は特徴ある座席配置、客席観は非常に複雑です。大きくは2階と1階の2層なのですが、それぞれの両翼が一段高くせり上がり、部分的にはワインヤード形式の視線の重なりが計画されているようです。空間容積の調整を図り且つ直視距離の減少を狙ったものかもしれません。全体像が把握しにくいので、舞台からは客席が絵画的に見えます。それだけで美しい要所要点が幾つか有り、それが秘訣みたいです。

 舞台高が1mと比較的高めです。最前列から7列ほどその水平床に配置されています。この水平床部分はエプロン兼オケピとして計画されていて、それに応じて天井部の装飾を兼ねた反響板もラッパ状に大きく広がった形状をしています。舞台部の反響板を使用したのでその様子が良く分かるのですが、正面反射板のタッパにして倍、横幅にして3倍から最大では4倍まで、さほど奥行きが無い中でぐんぐん広がります。

 こうしてほぼ視野の側面をさえぎるものが全く無いところから、客席が段々に折り上がっていきます。両階とも視界の中央4分の2が急目のスロープで素直に盛り上がり、奥半分はもう一段高く仕切られたところからさらに持ち上がります。両階両サイド4分の1づつは一段高くスタートしてそのまま持ち上がっていきます。全体が1階席前・右・左・中央・奥、2階席右・左・中央・奥と9エリアに分節しています。

 各分節面は壁面と同じ素材で反響板仕上げになっていて、微妙な曲面を持たされています。その精妙な感じはまるで録音スタジオの内部のような印象で、照明用の間隙や空調用の穴などは、その曲面を維持するため、とんでもなく絶妙なポジションに具合良く収まっています。公共館とは全く異なった論理、合理性で貫かれている気がして、輸出用高級乗用車を試乗しているみたい。普段乗りの空間とは全く違います。

 客席から見る舞台は遠からず近からず、ただ、びっくりするほど中音域の伸びが良く、高音はきらめきを失わない程度に華やかに・しかしうるさくなく、低音もちゃんと床に響いて回り込んで・それでいながら重圧を感じるほどにはこもらず。見た目ばかりでなく壁床の下地部分にもきっと細かく仕事されているに違いありません。どんな場所で観ても聴いても、きちんと満足できるような設計が実現しています。

 さすが日本放送協会、松竹や四季の蓄積とは別展開ですが、ここにも日本の演出空間芸術を支える技術が集積していたんです。未知の世界をじっくり堪能しました。

 ちなみにここの反響板は、フルセット吊り上げ、縮小折りたたみ、上手移動、スノコまで飛ばし格納システム。全工程約15分ほどで空舞台がコンサートホールになります。総重量70tとのこと、それをワイヤーワークでフライングしているわけ。これもまた全く普段と発想の異なる機構が存在していて、テレビって、あるいはテレビ局って、劇場より良いかも。ちょっとうらやましく思いました。

(2008/12/15)


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