Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/11/08


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.245

秋のフェスティバル●テアトロ・アルベニス

 山海塾のヨーロッパツアー、今期はスペインからのスタートです。マドリッドの旧市街、プラド美術館
と王宮のほぼ中間地点に私たちの上演会場があります。急勾配の2階席とかなりフラットな1階席、キャ
パシティが約1000のアルベニス劇場。劇場正面ホワイエには吹き抜けがあり、3層の少し古い感じの
する建物です。

 インテリアの全体はかなり独特で、古い映画ですが「ニューシネマパラダイス」に映っていた映画館の
よう。大理石を敷いたホワイエの天井は低く、階段の踊り場には鏡を張って、要所には大時代なクリスタ
ルのシャンデリアを下げています。あちこちに木彫・等身大の芝居人形が置かれていて、天井にも肉太の
筆致の天上画が。

 スペイン、と言えばメキシコの旧宗主国ですが、メキシコよりも色濃くスペイン風情が立ち込めている
はず、と考えればこの劇場の有り様も恐らく、文化の冷蔵庫なのでは。とは言え、マドリッドの街自体が
新しい古い物で一杯なので、なんとなく観光客が求める雰囲気に身を寄せつつ、現代国家としても戦略し
つつあるような。

 バルセロナやバルビオと異なりマドリッドの旧市街は王政の物語に彩られている気がします(地球の歩
き方参照)。イギリスもオランダも王制だったわけですが、この街のムードはいくつかの戦争の前の、伝
説的に平和が語られていた頃を思い出しながら、壊れていく旧い物を、新素材で古く作り直している感じ
がするのです。

 他のヨーロッパ諸国では明確にそうとは思わなかった建材の使い分けが、大変に面白く印象されます。
仮説としてではありますが、石に形を与える作業はその石の永遠性・強固性をその像に託し、いつまでも
その真性が保たれる願いを持つ。金属は、青銅にしても鉄にしても、金に見なされる希少性・高貴さを表
現するためのもの。

 対して、木材は木材が本来持つ生命力がイメージされ、木の塊りから削り出されたり彫り出されたりし
た造形は、その木の内側から姿を現したものであり、人間の存在と近しく、親しみ易さや安心感につなが
っている。これらの物性を基本として構造や装飾、機構と機能に応じ、その素材が選択される。近代建築
はその文脈を問うた。

 ガラスの多用やプラスティックの使用が、その議論の延長上にあったのではないだろうか。そして一回
りして、私たち劇場の現場や日常生活でも、再び旧来の物性と新素材の新しい価値観との間に生じる緊張
感を味わう時代になった。ところが、この街では、その緊張感が巧妙に隠されている気がするのです。そ
れはどういうことか。

 石は石、金物は金物、木材は木材、全てが破綻の無い扱われ方をしていて、且つ、ガラスやプラスティ
ックも穏やかに存在を消して使われている。例えばコンクリートでもコンクリートとしての素材感は求め
られず、石の代わりに用いられている。ガラスは恐らく何もないこと(空隙)を示し、プラスティックは
異物として使われる。

 ですからこの劇場も全く奇をてらうところが無くて、でもどこか、現代的な感覚からは遠く隔たった常
識が跋扈していて、それは9時〜15時までの朝仕事、16時までの1時間に昼食、16時〜22時の夜
仕事という、1日2区分制の時間割に市街全てが対応していることだったりするのです。

(2008/11/8)


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