Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/11/27


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.248

つくば学園都市●ノバホール

 どこかアメリカの、人里離れた大学町に来たような気にさせるここ、つくばエクスプレスの終点駅を降りてすぐに、磯崎新設計つくばセンタービルがあります。25年前、つくば科学博の折に造られた記念碑的建築物ですが、現在はよりスケールの大きなオフィスビルに囲まれてひっそりと、不当沈下した人工地盤の補修などが進んでいます。ポストモダンのボキャブラリは今でも不思議と古びず、威容を誇ります。

 ぺディストリアンデッキは吹きさらしで、筑波山や宇宙開発ロケットなど、なかなかに目を楽しませてくれます。ちょうどクリスマスの飾り付けが進む時期で、また筑波大学の入試時期にも重なったようで、本格的な寒さの前の賑やかしさがありがたかったです。ノバホールはこの駅前区画の南端、花崗岩で覆われたほぼ直方体の建物。そう言われないと分からない、静かな印象の造り。エントランスも暗く地味です。

 銀行や市役所を思わせる無表情なアプローチ、ディテールは凝っていてバブルの残り香か、デザイナーの趣味なのか、時間を掛けて見て歩けばとても楽しめます。ただ、設備施設の部分は相当に陳腐化しているので、なんともちぐはぐな、時代遅れの近未来小説・BクラスSF映画の舞台みたい。軽薄な仕上がりではないだけに、違和・異質感のありどころが意味不明のマティエールを帯びて、しみじみします。

 ホールそのものは無柱の大空間、客席は1000席なのに勾配の具合といい、見上げの壁面・天井面の細部の細工といい、極大のスケール感が見事に表現されています。舞台背面にはパースを表現した穏やかなカーブの屏風状の反響板を置き、極めて巧みに、舞台のヒューマンスケールへと視線を誘います。今回は弦楽カルテットとダンスの「アパートメント・ハウス」3年目に入ったツアーの初会場にお邪魔しました。

 客席からの舞台見渡しは本当に「空間のご馳走」でデリシャスなのですが、逆の客席観は素材のチープさやデザイン無しのそっけなさが災いして、何ともただの国際会議場みたいですね。裏表の差が激しいのにはびっくりします。その差は袖内や楽屋にも及んでいて、デパートの催事場裏倉庫のような殺伐とした「無デザイン」さが、例えばスパイラルホールもそうだったのですが、その当時の創造力限界だったのかも。

 建築家が想像する以上に出演者は快適性を求めていて、欲を言えばアットホーム感が無ければ、如何にそのホールのスペックやアコースティックが素晴らしくても、観衆のための建物としてしか評価されない。日本の劇場空間のデザインは素晴らしいのに劇場のデザインとして評価される建物が少ないのは、それも理由の一つでしょう。流石に20世紀末・21世紀に造られた劇場では少しづつ改善されてはいるものの。

 このノバホール、地域音楽サークルの発表会場に重宝されているそうです。客席から楽屋・舞台へのアクセスがスムーズで、そう思えば会議場としても利用価値は高いはず。敷居の高さ低さが渾然とするのもポストモダン・ボキャブラリならではの建築事情なのかも知れません。階段がやたら多くて天井が低いのは快適ではないですけど。ともあれ一見の価値あり物件でした。

(2008/11/27)


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