Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/11/14


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.246

アムステルダム●ミュージック・シアター

 たいそう久しぶりに、アムステルダムに入りました。見なかったここ数年の間に観光都市化が抜群に進み、いろいろ綺麗になっていたり整理されていたりで、街歩きが楽しいです。美術館や博物館の改装も2010年の初頭には全て終わるとのこと。

 そんなオランダの、唯一のオペラハウスがこのミュージック・シアターです。折りしもこの11月にはタン・ドゥンの新作「マルコ・ポーロ」が一ヶ月掛かりの公演中で、彼らの休演日に私たちの仕込みや公演が入るスケジュール。例によって、忙しいオペラハウスならでは。1988年の開館とのことですから、慣れたもんです。

 5年前に大きく施設や機材を入れ替え、現在はフル・コンピュータ・バックアップのオペレーション・コントロール環境が整っています。仕事の一つ一つはもちろん手作業での準備が不可欠、しかし一度セットアップされれば見事に、完璧なまでの再現性を誇ります。複雑な機構の連携も綺麗で、なかなか感心させられます。

 しかし最終的には人間の目に物を見せる宿命なので、ぎりぎりの操作調整が日夜続きます。コンピュータ世代ともなってしまえば物の見方も変わるのでしょうが、今はまだ現役のアナログ・マニュアル感覚にもなるべく、極力近づけようということ。

 演出家や照明家、装置家も、もちろんマニュアル美を信じているのでコンピュータの精緻な動きでは物足りなく思われるようです。どこかに計算の破綻や、不自由な感覚、不器用で人間的な曖昧さが存在しなければなりません。
そのためには、もっともっととことんまで美学を追求して、作品を数値化しなければなりません。

 数値化のための時間は限られていて、そうなると、デザイナーと共にオペレータにも、以前までのPC無しの仕事場環境よりさらに激しく厳しく、作品を理解し構築し、再度解釈をしなおし、作品そのものを(PCのために)再構築する能力が求められるようになります。作品の理解が不足すると、突然に、それはPCのために人間が上演している遊園地のアトラクションのように、なってしまうに違いありません。

 東京新国立劇場の状況を知らないのですが、このアムステルダム・ミュージック・シアターは、今まさに、作品が人間を表現するか、テクノロジーを表出するか、その瀬戸際的技術者世代交代(国費による社会実験)の最中ですね。先週のスペインがその意味では余りに牧歌的だったので尚のこと、このPC環境に驚かされています。

 しかし、オペラの伝統が殆んど無いこの劇場が、世界のオペラハウスをリードする技術構成を持って、オペラハウスの運営の研究現場に影響を与え続けているのは、こうした先鋭的なテクニカル・マネジメントのおかげでもあるのでしょう。

 オペラとしては小規模の2000席というサイズや、レパートリーを持たないプログラムなどであることとも合わせて、非常に信頼のできる劇場ではあります。

(2008/11/14)


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