Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》08/1/4


岩村原太の「万国文化中心報告」vol.222

宝づくし●五條楽園歌舞練場大広間舞台

 明けましておめでとうございます。昨年中はいろいろとお世話になりありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。万国文化中心報告は9年目、当初の山海塾ツアー同行記的な雰囲気からは遠く離れて、岩村原太の身辺雑記の様なレポートではございますが、こちらもまた、ご迷惑でなければどうぞお付き合いください。今年の始めは宝尽くし、この意気込みで参りたいと存じます。

 五條楽園、この名をご存知の方はそんなに多くないのではないかと思います。京都鴨川西岸の五条と七条の間、任天堂本社または会津コテツ会本部を抱えるお茶屋街で、自転車がやっとすれ違えるほどの幅の路地が高瀬川沿いに数筋流れ、ちょっと小粋な風情が漂います。昭和40年の頃、関西地域が万博景気の匂いに盛り上がった頃、それまではビアホールだった歌舞練場に大きな改装が施されたと聞きました。

 それまでは2階大広間のみ、1階がお茶屋街の見番と事務所を兼ね、3階に控え室・教室・倉庫などを並べた会館に、緞帳付きの本格的な座敷舞台をしつらえてあります。玄関からは階段、客席下上の桟敷席は銀襖を背負い、ちょうちんが並び、丹塗りの欄干。花道から舞台に掛けての立派な框、もちろん舞台床もヒノキ材を磨き上げ、40年近く経った現在でもしっかりとした踏み応えがあります。

 客席は格天井に組まれ、曼荼羅を意識したように照明器具が埋め込まれ、当時の最新冷房施設も残っていて今でも使えます。舞台には当時描かれたままと思しき背景幕がそのままです。引き幕式の御殿(牡丹図襖)、町や(室町あたりの景色=店の屋号が読める)、四季(花鳥風月)、巻き上げ式の松原、秋草、他に黒紗幕、ホリ、松羽目が使えます。雪かごまで設備されていて、その本気ぶりにびっくりしました。

 奈落が無く、また綱元も無いので、本格的な転換を伴う出し物は不自由かも分かりませんが、舞踊の発表会あるいは語り物の高座などには抜群の雰囲気が得られそうです。タッパが不足する割には、華やかで豪奢なある種の開放感に恵まれていて、劇場にありがちな暗くて湿っぽい空気を感じさせません。舞台間口と奥行きのプロポーションにも破綻は無く、定式の演出ならきちんと収まります。一見の価値あり。

 ただ、照明音響の設備は古く最近の出し物を掛けるには工夫が要るのと、幕類はどれも寿命が来ていて使うごとに破れを補修したりロープを取り替えたり。小まめなメンテナンスが不足している現況をとても残念に思いました。掃除は出来ても、こうした施設設備は実際に使いながらでないと直しようが無いものなんだと思います。もったいないことですが、今回のような踊りの新企画は、珍しいという訳ですね。

 この度の企画は今貂子さん率いる倚羅座の皆さん、この会館と街と舞台に愛着を感じ、長い期間暖めて来られた内容と伺っています。舞台そのものは現代的な抽象作品に向きませんが、じっくりと腰を据え、設備や空間と折り合うならば、この場所を生かした試みは幾つも成立しそうです。まだ演出との言葉も曖昧だった前世紀の遺構、劇場という概念が認識される以前の舞台造り、元祖(!?)の息吹きがあります。

(2008/1/4)


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