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伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」
vol.22

Arts Report 2014/9/6
パイプオルガンの響きで聴くアヴェ・マリア@広島流川教会



出演/佐々木悠(解説・パイプオルガン)
   塩井京子(ソプラノ)

 中に入ると、壁も屋根も真っ白な新しい教会。舞台上に大きなスクリーンが組まれて、その上を見上げると、真黒い木の十字架が白い壁に浮いている。美しい教会建築にこの無粋なスクリーンは、何か已むにやまれぬ事情なんだろうと想像しながら後ろの方の席に座る。

 冒頭、スクリーンに映像が映って、やっと気がついた。パイプオルガンは客席の上後方にそびえ立っていて、この位置からはパイプの上部がちょっとしか見えない。これが已むにやまれぬ事情で、観客はスクリーンに映る演奏者を見ながら、頭上に降り注ぐオルガンの音を聴く。

1曲目のオルガン独奏後、映像がパワーポイントに切り替わり、演奏者がパイプオルガンの歴史や構造、曲目について解説。その後、2曲目からはソプラノも登場し、やはり映像の中でアヴェ・マリアを歌う。

 この感覚はなんていうか、間接的生演奏とでもいえばいいのだろうか。映像に集中するとDVDを鑑賞しているような錯覚に陥り、現実の音に集中しようとして目線を黒い十字架に向けると、かえって現実ではなく非現実の世界に連れて行かれそうになる。しかし、確かにこの同じ空間に私は居て、オルガンとソプラノの演奏が行われている。
演奏も歌も温かく血の通ったものであるのに、それを直接目で見られないというだけで、こんなにも人の感覚は狂わされる。

ふと、黒い十字架の一番下の部分が破損していることに気がついた。そして次の瞬間、これはきっと被爆して真黒に焦げた十字架にちがいないと確信した。

 終演後、このコンサートを企画した黒い衣服のボランティアスタッフたちの笑顔をみて、つまり平和とはこういうことだという気がしてきた。


プログラム/
第1部 「システィーナ礼拝堂への祈り」 F.リスト

    「アヴェ・マリア」
        J.アルカデルト
        F.カッチーニ
        J.S.バッハ=C.F.グノー
        F.シューベルト

第2部 「アヴェ・マリア」
        J.ブラームス
        F.P.トスティ
        M.L.ケルビーニ
        P.マスカーニ
        L.ルッツィ

    「アヴェ・ヴェルム」 N.ハキム


主催/アートサポートクラブ
第17回アートサポートクラブ企画 聴く観る知るシリーズVol.5



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