Arts Calendar/Art's Report site/《NOTEJAPAN Report》

伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」
vol.21

Arts Report 2012/6/10
広島で生の落語を聴く会「寄席の楽しみPART?」@広島工業大学広島校舎



 彼女はきっと無類の落語好きが講じて、仕事をしながらもどうにかして広島で生の落語が聴きたいと噺家を招いているうち、こんな大規模なことになってしまったにちがいない。さらにこの活動が軌道に乗ってきた矢先、彼女は県外への転勤が決まったという。それでも休暇をとっては広島に戻り、この落語会の主催を続けてるんだとか。恐るべきエネルギーである。

 今回は落語協会の巡業に合わせることができて、寄席形式の特別公演。出演は柳家さん喬、林家正楽、柳家我太楼、入船亭遊一、漫才のロケット団、お囃子・金山はる。「寄席」というものが広島にはないので、開演前に司会者として登壇した彼女が挙手を求めたところ、200名近い来場者の半数以上は実際の寄席には行ったことがないらしかった。(しかし半数近くは東京かどこかの寄席に行ったことがある、ということは、かなりの落語ファンが集っている。)

 その落語ファンたちが待ち望んだ今日のトリ、柳家さん喬師匠。広島で一般客を前に高座に上がるのは今日が初めてだと、間をとりながら静かに話し出す。演目は古典落語「八五郎出世」。長屋住まいの職人・八五郎の妹が大名家に嫁いで嫡男が生まれた。八五郎は大名屋敷に一人招かれ宴席のもてなしを受けるが、侍言葉がよくわからない。このやりとりでひとしきり笑わせる。そして最後は、どうしても越えられない身分の違い、その中にじんわりと伝わってくる妹と甥子、自分の母親への愛情に、思わず涙がこぼれた。落語を聴いて笑うことはあっても、泣いたのはこれが初めて。柳家さん喬、なんという深みのある噺家なのだろう。いや、噺家というより、深みのある人だと思った。

主催/広島で生の落語を聴く会(代表・上村里花)



伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」の扉へ

無断転載禁止 掲載:アーク編集室