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伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」
vol.18

Arts Report 2008/3/27
デジタルミュージックの世界@広島市東区民文化センター スタジオ1

出演/RAKASU PROJECT.(落 晃子)

コンピュータのいろんな機能を音楽に応用する「デジタルミュージック」のうち、さま ざまな「センサー」を使った音楽を、前半はプロジェクターを使って講義風に、後半はコンサート風に仕立てたイベント。
センサーには「加速度センサー」(傾き/衝撃を認識して数値化するもの)や、「距離センサー」「光センサー」といろんな種類があり、すでに日常生活の中で活躍している。そのセンサーにシンセサイザー(シンセといえば、かつてはキーボード型のものが ほとんどだったが、現在はソフトとしてパソコンにインストールするだけでいいらしい)をつなぐと、センサーに反応して音が出るという。

ステージ上にセットされているのは、グランドピアノと4台のノートパソコン、そしてどこかに隠されているセンサー。小柄な女性のRAKASUさんがノートパソコンのキーをパチン、と叩くと、製品の写真や、複雑な回路図が見えたりする。解説を加えつつ、また細い指でパチン、とキーを叩く。すると今度はビデオ映像が流れる。どこか、女性棋士に似てるなあと思う。

後半のコンサート。普通のコンサート風に、ソデから譜面を持って登場したかと思うと、中央に置かれた譜面台にそのうちの一枚をのせた。瞬間、ピアノの無作為な音が鳴る。譜面をさらに数枚のせたり、全部をぱっと取ったり、不審な動きを繰り返すたびにピアノが鳴ったりやんだりする(といっても生音ではなく、パソコンから)。
種明かしをすると、譜面台に小さな光センサーが仕込まれていて、会場の照明を譜面の紙がさえぎることに反応して音が出ていた。

RAKASUさんの自宅にあったという、昔の「黒電話」用テレホンピックアップ(黒電話に貼りつけると、微細な振動をひろって会話を録音できる)を使った演奏。要するに電磁波に反応して音を出す仕組みになってるらしく、パソコンはもちろん、電気製品の電池部分、携帯電話の充電器、コード、どれも恐ろしいくらいの雑音が出る。
あとで訊いたら、このピックアップをPHSと携帯電話に近づけると、PHSはほとんど音が出ないのに、携帯からはかなりの音が発生してるという。人間の耳に聞こえない、大量の雑音に囲まれて私たちは生活している。もうどうしようもないけれど。
ただ、彼女がその雑音を操って仕立てた即興の音楽作品は、なぜかどれも耳に心地良い。

最後に、両手首にLEDの懐中電灯をバンドでとめて、そのままグランドピアノを演奏しながら光センサーをあやつり、それに反応してパソコン内のピアノが鳴るという、虚と実が入り混じったような音楽。ピアノの生音はやはり美しいと思う反面、もしかして世の中のほとんどの人は、CDやテレビの電気信号によるピアノの音しか聴いたことがない? ということを思い浮かべてぞっとする。
それでも彼女のピアノは、頭脳明晰な棋士のように鋭いタッチで、虚も実も、すべてが現実なのだと言ってるようだった。

デジタルミュージックの技術も発想も面白いし、刺激的ではあるけど、それが表出された音楽そのものが面白くなければ、結局、無意味なことだ。技術は誰でも共有できるサイエンスであり、そこから表現される音楽は、彼女の中にしかないアートだと思った。

主催/(財)広島市文化財団 東区民文化センター



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