Arts Calendar/Art's Report site/《NOTEJAPAN Report》club-organic*jive

伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」
vol.11

Live Report 2004/5/18
クラブ・オーガニック[DUO]/渡辺等&chikara@Live cafe Jive

出演/渡辺等(12弦フレットレスギター)
   chikara=中野力(ベース)
ゲスト/柏木広樹(チェロ)

ライブの10日ほど前、広島の「源蔵」という知る人ぞ知る名物居酒屋の少し傾きかけた座敷で、渡辺等さんと初めて出会った。広島大学がまだ広島の市街地にあったころ、男子学生たちが大騒ぎしていた店。こんな所を選ぶとはベースの中野さんも渋い趣味だなあと思ったら、この店はネットで調べて、ぜひ来てみたかったという渡辺氏のリクエスト。
とても有名なミュージシャンらしいし、所属事務所社長もご一緒ということでわけもなくすごく緊張していた私も、なんだこういう店に興味をもつ人なら、そんなに緊張しなくても大丈夫かなと思う。
お話をうかがっていると、渡辺さんの本籍地はもともと私と同じ呉市だし、事務所社長のCさんも広島出身で共通の知人もいて、じつは見えない縁がつながっていたのかなという気がしてきた。

ライブ当日、会社がおわってリハーサルをしている会場へ駆けつけてみると、なんだか守備練習中の内野手みたいな中野さんの顔。細かい部分にもあれこれ矢継ぎ早に注文を出し、1000本ノックを打つ鬼コーチ(?)のような渡辺さんがいた。
とはいっても、べつに、険悪なかんじではないのだ。逆に優しい繊細な空気が立ちこめて、彼らはじつにいい関係なんだろうなと思う。じっとリハーサルを聴いてるうち、いま、ちょっと心が弱くなっていた私にこの不思議なギターの音がしみ込んで、その痛みで涙がにじんできてしまう。リハで涙するなんて失礼な。でも私はちょっとひねくれた性格らしく、本番ではついに涙は出なかった。またはあのリハの一瞬に、心の強さが戻ったのかもしれない。

12弦フレットレスギターとベース(これもフレットレス)を2人が並んで立って弾く姿、時々弦をはじいたりする左手の動きはどこかで見たようなと思ったら三味線と同じことか。そもそもベーシストで、ベースを中心にあらゆる弦楽器を操る渡辺さんが自分にもっとも合うイメージで開発したというこの楽器は、私の中で三味線になったりシタールになったりする。しかしどんなものを想像しようと、渡辺さんの音楽はその全部を肯定しながら、どの曲もさわやかで明るく、一点の翳(かげ)りもない。

今回はデュオの演奏がメインで、あとは渡辺さんのソロ、後半からゲストでチェロの柏木広樹さんが参加されてトリオ。弦楽器好きな私には申し分のない内容だったが、少しだけ気になったのは「音」。最近私は生音かそれに近いものしか聴いていないので、今回のようないわゆる普通のバンドのようにPAを使い、会場めいっぱいの音量で作り上げるサウンドには面食らった部分もある。
演奏者やほかのお客さんはべつに普通に納得して楽しんでたようで、もしかして私の耳のほうが変わってるのかもしれない。けれど、時々耳が痛むような高音、少し余分かなと感じる音量でなければ、私としてはもっと感動し、本番でも涙を流せたかもしれない(もちろんリハと本番の音が別物だったというわけではないが)。

超満員のJiveの後ろのほうで立ち見をしながら、こういう商業ベースのクリエイティブな人たちについて考える。手抜かりない事前のプロモーション、事細かに出されるBGMやプロモーションビデオの流し方などの指示。これは「ビジネス」で、何人もの人々がこれで生活しているのだ。当然だけどそういう現実感のようなものが突きつけられる。

この「音」だって、いわば厚化粧美人の音だ。いつもほとんど素顔の美人を見慣れているからびっくりするけど、厚塗りにして香水でもつけなければ、市場での商品価値は出てこない。彼らはやっぱりそういう世界に住む人たちなんだろう。否定もしないし嫌うわけでもないけど、やっぱり私とは人種が違うような気がする。

とはいえ渡辺等さんの音楽の創造性と優しさは充分私の心にしみたので、いろいろ迷ったあげく『portrait of summer』というやや古いCDを選んでサインを頼んだら「渋いねえ!」と言われた。きっとどう転んでも渋いものを選んでしまうタチなんだろう。
翌日家で聴いてみると、渡辺さんご自身がいろんな弦楽器を多重録音したという、シンプルですごくいい作品だった。一気に大好きになってしまった。

主催/エディション ガスパール


伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」の扉へ

無断転載禁止 掲載:アーク編集室