Arts Calendar/Art's Report site/《NOTEJAPAN Report》Mizunokuni2003*SHIMANE

伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」
vol.8

Live Report 2003/10/3
竹水の響@桜江町・水の国ミュージアム104°

出演/北垣内秀響(箏)、森中こずえ(十七絃箏)、安達伸子(箏)
   中島教秀(W.Bass)、武井努(Sx,Fl)

島根県邑智郡桜江町、「水の国ミュージアム104°」というバブル時代に建てられた豪華なミュージアム。いろんな事情で入場者数も減り、合併問題もからんでゆれている施設だそうだ。縁あって、ここを活用するためのコンサート企画を依頼された。水を共通テーマに、現代アートミュージアムとサイエンスミュージアムを複合したような会場は、現代音楽とか、シリアス系の企画が似合いそう。なのに、地元には高齢者が多いので難しい内容はやめてほしいと主催者側がいう。しかし、童謡とか、わかりやすい曲を和楽器でやるのはかえって難しい。そううまい具合に譜面がないのだ。

悩み抜いて、前半の箏曲ステージでは箏&十七絃箏アレンジの「日本のうたメドレー」、さらに箏・尺八二重奏アレンジ「浜千鳥」「五木の子守歌」の、尺八部分をサックスとフルートで吹いてもらって構成。そして後半をジャズ系のサックス&ベースデュオにして、ここでも2人で「おぼろ月夜」をやってもらうことにした。ジャズの場合はこういうのも簡単に対応してくれるので楽だ。

ミュージアムの外にある浅い池をはさんで、回廊部分に客席がならべてある。池の上に特設ステージが組まれている。音響照明もばっちり入っていて、想像以上のきちんとしたコンサート会場。お客さんもほぼ満員で、ミュージアムの職員やボランティアの方が宣伝やチケット販売、会場準備までせっせと動いてくれる。田舎の人たちは本当に働き者で、頭が下がる。

今回の「竹水の響」というのは、水の国で開催中の眞板雅文展「竹水の閑」(竹をつかったアート)に合わせたもの。眞板氏の大きな竹のオブジェが池の中から空に向かって突き出ている。あまりに周囲の風景にぴったりで、知らなかったらこういう建物なのかと思ってしまう。施設の中の小さな展示室にも眞板氏の作品があって、真鍮で象った竹とか、竹を縦割りにして節に朱色の水を入れたものとか、いろいろあった。先日下見に来て、この展示や館内を全部観てまわったが、残念ながら今日はじっくり鑑賞する余裕なし。

夜6時半の開演時間にはもう真っ暗で、回廊にならべた竹キャンドルがなかったら池に落ちてしまいそう。お客さんは高齢者が多いようだけど、じっくり鑑賞しようという雰囲気が満ちている。私はステージ上で素人司会をしなければならなかったので、観客の顔は真っ暗でぜんぜん見えなかったが、そういう空気だけは感じた。10月の島根県山間部にしては、風もなくおだやかな夜。

でも、音楽マニアな私自身が納得するのは「日本のうた」じゃなくて、なんといってもこの空間で聴く北垣内秀響氏の箏独奏。激しく現代的であればあるほど、同時にクラシカルな魅力に身体がつつまれていくようだ。いつでもどこでも、常に100パーセントの演奏を聴かせてくれる超人的な箏曲家。そして、中島教秀氏のユニークで日本味のあるオリジナル曲。山にこだまが響いて不思議な自然の間合いを感じた、武井努氏のサックス独奏。私の耳に心地よくきこえる音を紡ぎ出す人は、みんなどこか日本的で、現代的かつ古風な魅力をもっている。

それにしても今日のメンバーはいずれも実力派のアーティストだけあって、演奏レベルの高さには自信があるのだが、私の素人司会はいったいどうなんだろう。せめて、「むずかしい曲はわけがわからんよ」というおばあちゃんのすぐ隣に座り、ゆっくり説明するような気持ちで、思いっきり素人らしくしゃべってみたんだけど。

ところでこのコンサート終了後、お世話になった新聞記者Tさんに、ちょうどこの日に行われる珍しい式年(数年に1度)の大元神楽につれていってもらうことになった。意外にもジャズメンの2人が神楽、神楽と大騒ぎで、打ち上げもそこそこに瑞穂町に向かう。

夜神楽は私も初体験だったが、正直、仰天した。きっとおごそかな雰囲気で、薄暗い中での「儀式」的なものだと勝手に思っていたのに、そこはまるで“お好み演芸会”会場。なんせ地元の人だけで、徹夜でふらふらになってやるものだから台詞は忘れる、ヤジはとぶ、内輪ネタにするどいツッコミ。もう深夜なのに子どもたちも最前列で大はしゃぎ。石見神楽は広島でもしょっちゅう目にするが、神楽で大爆笑なんて夢にも思わなかった。

その大きな理由として、大元神楽では「塵輪(じんりん)」「黒塚」など、おなじみの“鬼退治”系のストーリー性のある演目の合間に、神職の儀式的な演目がある。これが妙におかしくて、なぜか会場の拍手喝采と大爆笑、ヤジの嵐を誘うのだ。

とくに私が転げ回って大笑いしたのが「天蓋」。会場となる社殿の天井部分に木枠のようなもの(天蓋)を吊り、五色の美しい紙を切って模様にしたものがたくさん取り付けられている。美しい藤棚のようなかんじ。そのうち中央と四隅に天蓋の小型版がさらに吊ってあり、これをお囃子にあわせて、ヒモの遠隔操作でずるずると引き下ろし、また引き上げ、最後にめちゃくちゃに飛び回るように動かすというもの。これが、あまりの意表をついた単純さに面食らって、とにかく笑うしかない状況に陥ってしまうのだ(言葉で説明しにくいので、ぜひ一度本物をごらんください)。

同行した関西ジャズメン2人も、まるで甲子園で阪神の試合を見てるようだと大喜びで(関西人にはたまらない雰囲気だったろう)、すぐ帰ろうと思ってたのにもう1演目、もう1演目とずるずる朝4時まで楽しんで、一向に終わらないので渋々帰ることにした(結局、終了したのは朝7時ごろだったらしい)。瑞穂町市木のみなさん、大変おじゃましました。

主催/桜江町・水の国ミュージアム104°
企画/ノートジャパン公演事務局


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