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伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」

vol.1

Live Report 2002/9/17
モダンタンゴ五重奏団 @LIVE cafe Jive

出演/モダンタンゴ五重奏団
    啼 鵬(bn)、鄭 英徳=チョン・ヨンド(vn)、徳武正和(g)、
    徳原正法(b)、渋谷 次(p)

アストル・ピアソラの作品をレパートリーとするこのバンドは、どういうわけか最初聴いたときに強烈な魅力を感じて、以来、もう何年も聴きつづけている。3年くらい前にバンドネオンの啼鵬(ていほう)氏を関東から招くようになって、格段に5人のカラーが揃ってきた。
バンドとはいっても、メンバーはたとえば広島交響楽団の団員だったり、もともとクラシック畑の人だったりする。耳がバンド慣れしてる私には当初から「クラシックの人がバンドやってます」という風にしか聴こえなかったけど、またそれが逆に、なんともいえない上品なテイストをつくり出していた。

去年の話をばらしてしまうと、さすがはクラシックの人、小ホール(広島市東区民文化センター・スタジオ1)の演奏はけっこう良かったのに、その前日のJive(今回と同じライブバー)の演奏にはがっかりだった。メンバーはそれなりに頑張ってるようだけど何も伝わってこないし、こういう店に場慣れしてないクラシック関係のお客さんも、ライブ慣れしてるお客さんも、どんどん遠ざかっていくというひどいライブだったのだ。もっと言うとその原因はPA(音響)のまずさで、出音のバランスも悪く、メンバーどうし互いの音が聴こえてないのは演奏からすぐわかった。これではどんないい演奏も水の泡だ。

ところが今回の演奏を聴いて、私は正直びっくりした。
まず、音がいい。5つの楽器がバランスよく聴こえるし、ちゃんとバンドの音。PA席を振り返ると今回はまともなPAさんがスタンバっている。
そして演奏のテンション。
結成5年にしてようやく何かの呪縛から解放されたように、身構えない一個のミュージシャンとしての音が聴こえてくる。

たとえば以前は、時々つま先立って歩くような不自然な呼吸でアクセントがついていて、しかもそれで全員がぴったり合ってるという不思議なノリで、私にはどうも気になって仕方なかった。それがようやく今回からは、バンドらしい自然な呼吸に変わってきている。とくにフロントで全体のサウンドを決定するバンドネオンとヴァイオリンが、これまでになく互いを気づかうように呼吸をあわせているのがわかる。呼吸のうねりは確実に客席にも届く。お客さんもメンバーも、すでに2曲目あたりから完全にライブのテンションに巻き込まれていく。

要するにライブのお客さんはライブ演奏を聴くために来るので、ここで「模範的」なレコーディング用の演奏をされてもがっかりしてしまう。そのちがいが彼らにもやっとわかってきているようだ。そしてその経験は間違いなく彼らのクラシックを豊かにするだろう。

厳しい評価になってしまったが、「先生、とてもよかったです、感動しました!」としか言わない客層ばかり相手にしていては、残念ながら何もはじまらない。
しかしともかく、このバンドは毎回確実に、薄皮をはぐように成長を続けている。それが私を何年も惹きつけてやまない魅力なのかもしれない。

主催/モダンタンゴ五重奏団


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