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伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」

vol.2

Live Report 2002/11/15
広島交響楽団第224回定期演奏会 @広島厚生年金会館ホール

出演/広島交響楽団
   指揮:渡邊一正
   ホルン:ラデク・バボラーク

邦楽出身、ライブ好きの私にとってオーケストラのサウンドは最も縁遠く、興味のわかないものだった。譜面どおり、何十人のユニゾン、無個性、メンバーが多すぎて何が言いたいのかよくわからない。今日この日、この時のメリットは何なのか? わざわざ足を運んだ意味は?

それでも私にとって「最後の砦」、オーケストラの良さをどうにかして知りたい。とりあえず黙って広響の定期演奏会を何度も聴いてみる。しかし毎回、何の感動もしない。なんだか大勢の演奏者に1,000人以上の観衆のなかで、ぽつんとひとりでいるような気がする。

ただながめてるだけの定期通いがつづいたある日、突然はっと目のさめるような演奏があった。指揮は井上道義。選曲にもよるのかどうか知らないが、楽器のひとつひとつが初めて声を出して私にしゃべりかけたような気がした。まるで転校生の私にようやく声をかけてもらったようにうれしい。

その後、私は楽器にしゃべらせることのできる指揮者とできない指揮者のいることがわかった。もうひとり、楽器があれこれ私にしゃべってくる指揮者がこの渡邊一正。今日はホルンのゲストを迎えている。作曲者名も曲名もどうでもいい私はパンフも見ずに音だけを聴く。明るい音階でやさしい音、スイスの山々とすんだ空気が浮かんできた。鈴をつけたヤギが走ってきそうになる。
観客もなんかほっとして座席にくつろいでるようで、爆発的な大拍手はおこらない。でもこれはいい意味なのである。

休憩でやっとパンフをめくり、つぎはマザーグースのショートストーリーを音楽であらわした組曲「マ・メール・ロア」(ラヴェル)、そして同じくバレエの物語の場面を音楽であらわしたバレエ組曲「火の鳥」(ストラヴィンスキー)だと知った。

後半が開演すると、私は物語に聞き入るように音の世界に入り込む。会場は相変わらず大きな厚生年金ホールなのに、どこか農家の座敷でおばあちゃんの昔話を聴いてるような錯覚に落ち入る。2階席の一番後ろに座っていながら、ステージがとても近い。それに音が日本語で聴こえてくるようだ。まぎれもない「日本の」オーケストラの音。

壮大で立派でありがたい交響楽には疲れてしまう私をはじめ多くの日本人が、このような日本的なサウンド、身近で、繊細で、大声でなくふつうの声でしゃべりかけるようなサウンドに多くの共感をよせるに違いないと思う。今回の広響の演奏は、邦楽出身者としても充分に楽しむことができた。

主催/(社)広島交響楽協会 中国新聞社


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