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伊藤多喜子の「別冊 邦楽ノート」

Live Report 2002/8/3〜4

「夏山の一夜」@縄文村(島根県石見町)

出演/中島教秀(W.Bass)、MANABU(Drs.)

 8月の自主企画ライブのスタートは関西在住、山の鉄人ベーシスト・シェフ中島(年間なんと100日以上も山に登っている。いつ仕事してんねん)。なぜシェフかというと、料理の腕もまさに鉄人だから。今回の舞台は島根県石見町の「縄文村」という、村ではなく1軒の自然食レストラン。ドラム&ベースのデュオという編成は“変態ジャズ”(シェフ談)らしいけど、私にとっては別にふつうの音楽なんだけどな。

 縄文村は、食べるほうの鉄人ドラマーM氏が超能力級の鼻とフットワークで見つけたライブスポットである。肉魚はいっさい使わず、山でとれた野菜、芋、海藻、木の実などでびっくりするほどうまい料理を出してくれる。今回は企画ものとしてディナーライブをやりました(普段はランチバイキングのみ)。ちなみに縄文村はこんな山奥にあるのに、朝11時の開店時には行列ができ、12時にはバイキング料理がほとんどカラになるという超穴場。

 高台にある縄文村の中庭から一望できるのは石見の農村風景と中国山地の山々。だんだん暮れてゆく山の風景をバックに聴く不思議なジャズは、山をテーマにしたシェフのオリジナル曲をもとに、ある夏山での一夜を物語風に構成したもの。そのタイトルも
『おだやかな出会い』
『岩 その堅固なれど、脆くも儚いもの』
『雷雨』(ドラム・ソロ)
『逍遥 パート2』(ベース・ソロ)
『遠い目をして 君は 森をみていた』
と、誰もがイメージしやすいものに考えてくれました。さすがは実体験をつんだ山男。

 ベースがメロディになったりベースラインになったり忙しいけど、そもそもシェフの曲ははっきりしたフレーズがあるので、一緒に口ずさめるようなやさしい趣きの曲ばかり。お客さんも山歩きが好きな年輩の夫婦とか自然派の若い人たちで、思いのほかCD(アコースティック・モーションというバンドのアルバム「snow ridge」)も売れたし上出来でした。この企画をもっていってよかった!
 背景の山の緑、木でできた大きなウッドベース、そうか、この楽器も山の一部だったんだ。それじゃ人間だってそうかも。M氏もシェフも、なんだかすがすがしい顔をしている。
 山男でも、実際に山の中、しかも屋外で演奏するのは生まれてはじめてらしく、演奏後、酔っぱらって満天の星を見上げながら「こんなええとこで演奏さしてもらって、オレは幸せや〜」と満足そうだった。
 
 ところで、夏場の登山は標高が低いと暑くて登れないので、シェフも梅雨開けからしばらく山に登ってないらしく、そのせいで体が重くなり、お腹が出てきたのが気に入らない。そこで広島に来る日にとうとう「北アルプス・奥穂高縦走」を決意、日曜の大阪発の夜行バスを予約してしまっていた。

 日曜はランチ時間のライブもやる予定で、それが終わって3時ごろまでに出発すればバスに間に合うというので、そのつもりで土曜の夜は縄文村のバンガローにスタッフ共々6人で1泊。普通に1時くらいまでみんなで飲んで寝ていると、シェフは「ウ〜」「ア〜」などと唸りながら足で周囲をドカドカ蹴ったりしていた。きっとアルプスに登る夢でも見てたんだろうなあ。

 ところが翌朝、大変なことになっていた。シェフは最初「二日酔いや〜」といって苦しそうな顔をしていたがじつは二日酔いじゃなくて(実際そんなに飲んでない)本当に胃の具合が悪くなってしまったのだ。本番は12時。なのに、11時すぎても苦しそうに寝たまま起きてこない。ドラマーのほうは元気いっぱい、着々とセッティングしている。

 しかし、いよいよ12時前になるとシェフは起き上がって会場に歩いて行き、別人のようにばっちり演奏し、トークも全部自分でやって2ステージこなし、もう良くなったのかと思ったら、そのあとまた食べ物の匂いだけで気持ち悪いといってぐったりしていた。そして私たちが昼食をとる間、またバンガローで寝ていた。

 ところが、3時すぎたころにまた起きだし、荷物を積み込んで「もう行かなあかん」といって本当に夜行バスに乗るために去っていってしまったのだ。朝からほとんど飲まず食わずで青い顔したまま・・。

 アルプスどころか大阪まで運転することすら危険な気がして、私は心配で翌日電話してみたら電波が届かなかったので、やっぱりアルプス山中にいるのかなと思い、下山予定の3日後にまた電話してみた。そしておそるおそる「生きて帰りましたか?」ときいてみると「あたりまえや!」と怒られてしまった。
「でも、ほんましんどかった〜。日本で一番難しい縦走コースやったからな」さても恐るべし、山の鉄人。


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